相模原市立総合学習センター (神奈川県)

課題
  • 子供をネットの危険から守りたい
導入製品・サービス
    • 学校ネットパトロール
自治体規模
100校以上
プロフィール

相模原市立総合学習センター
〒252-0239  神奈川県相模原市中央区中央3-12-10
http://www.sagamihara-kng.ed.jp/

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取材日
2014年11月取材

さまざまな教育課題の解決を目指す、神奈川県相模原市。1970年代から「特色ある学校づくり」に取り組み、1987年には全国に先駆け全校にコンピューター室を設置しました。2001年には教育委員会内に「総合学習センター」を設立し、市民の生涯学習活動を支援するとともに、学校教育・社会教育の向上に必要な調査・研究・研修を総合的に行ってきました。現在は、学校のICTインフラ整備、児童や生徒の情報教育にも注力しています。今回は、いわゆる「ネットいじめ」に関する取り組みについて、相模原市立総合学習センター学習情報班の岡部竜生指導主事と、相模原市立清新中学校技術科の須藤雄紀先生に、お話を伺いました。

社会問題化する学校裏サイトの対策に乗り出した相模原市

▲ 相模原市立総合学習センター
  学習情報班 岡部竜生指導主事

「2008年前後の頃から、いわゆる『学校裏サイト』と呼ばれる匿名掲示板などが社会問題となりました。相模原市も例外ではなく、在校生や学校関係者の誹謗中傷などが書き込まれる問題が顕在化してきました。各学校からも『どうなっている?』『どうすればいい?』などの相談が多数寄せられ、対応に苦慮するケースもしばしば。そうした危機感に直面し、各校の対応に任せるより、教育委員会で市内全校に向けて対応していかないと大変なことになる、と動き出したのがきっかけですね」と語る、岡部指導主事。


▲ 相模原市立清新中学校
  技術科 須藤雄紀先生

「私も当時は教員になったばかりの頃で、勤めていた中学校でも大きな問題になっていました。しかし、学校裏サイトが複数存在していたり、パソコンからアクセスできないようになっていたり、学校側で常時監視して対策を施すには相当壁が高いと感じていました」と須藤先生も当時の状況を話します。

そこで、相模原市立総合学習センターでは対応策について協議。「市内に109校の小中学校を抱えるスケールで、1校ごとにきめ細やかな対応をするには、専門の常駐員による調査活動を行っていくほかにない」という判断から、「学校ネットパトロール事業」を開始することになりました。


説得力・抑止力向上や情報モラル啓発にも効果を発揮

「学校ネットパトロール事業」とは、専門知識を持った常駐員が、学校裏サイトなどの目視調査による現状把握を行い、総合学習センターを通じて該当校へ連絡を行うのが最大の特徴。危険度の高い投稿内容や公序良俗に反する内容、他者への誹謗中傷、個人情報の流出が見られる内容を抽出します。さらに、学校からの依頼による調査・報告も行います。

「自校の裏サイトの把握さえできなかった状態から、実際に交わされているやりとりまでつぶさに知ることができるようになりました。具体的な対策を立てていく一つの拠り所としての活用が可能になったのは、大きな成果です。同時に、『情報環境』にそれほど詳しくない教職員たちの間でも危機意識が高まり、保護者向けのミーティングを設けるようになるなど、情報モラルへの意識啓発にもつながったと実感しています」.(須藤先生)。

「毎月の調査状況の件数や内容を明らかにすることで、現実に起こっていることとして児童・生徒や保護者への説得力が高まりました。また、緊急度が高いと判断した場合は警察などの機関とも連携して、大事に至る水際で即座に対応できるなど、抑止力と合わせて児童や生徒たちへの対策を打てるようになったことも大きいですね」(岡部指導主事)。


導入から6年間にわたり「学校ネットパトロール」を運用してきた同センター。その間に培ったナレッジやノウハウを糧として「学校ネットパトロール」の質を向上させてきました。

「現在、問題のある書き込みがあると、素早く対応できる体制ができています」と岡部指導主事は相応の手応えを感じているようです。


ネットパトロールだよりの発行、情報モラルハンドブックの導入、
まちかど講座の運用と、独自の取り組みにも発展

▲相模原市 ネットパトロールだより

併せて同センターでは、独自の情報モラル向上への取り組みも行っています。「ネットパトロール常駐員から提出されてくる分析結果をもとに、総合学習センターでは『ネットパトロールだより』を毎月発行し、ホームページでも公開しています。インターネットに関わる子供たちの現状について、教職員や保護者と広く共有できるよう、調査件数だけでなく最新のトピックにも触れ、指導の参考になるものとして、現場への伝達を図っています。そこで得た情報をきっかけに、各校の教員や保護者が共に話し合えるようにサポートしています。児童や生徒に押し付けるのではなく、彼らの主体性を重視しながら一緒にインターネットとのつきあい方を改めて見直していくトリガーにしてもらえれば、という想いがありますね」(岡部指導主事)。

「TwitterなどのSNSをはじめとしたインターネットとのつきあい方は、今や避けて通れないテーマ。保護者自身もしっかり理解していないことが多く、その中でどう子供たちを導いていくか、頭を悩ませています。『ネットパトロールだより』なども参考にしながら、最適解に導く支援ができたらと取り組んでいます」(須藤先生)。


▲相模原市 情報モラルハンドブック

さらに同センターでは、独自に「情報モラルハンドブック」を発行。ワークシートや動画コンテンツ、指導案をセットで用意し、道徳などの授業で使える教材として全校に配付しています。そして各種研修の中で先生方に説明するなど、精力的にこの問題に取り組んでいます。「『知ること、決めること、行うこと』という流れで、子供たち同士や家族で、インターネット利用のルールを自主的に設けていけるようになるのが理想です。そのお手伝い役として、私たちも『生涯学習まちかど講座』の文化・教育の1テーマに『情報モラルとマナーについて』を設けて出張講義を展開しています。2013年度で約20回、2014年度は11月までに10回開催し、草の根運動的に保護者や地域の方々への意識向上を図っています」(岡部指導主事)。


SNSなど進化し続けるメディアへも継続的な対策を

インターネットに関わる子供たちのトラブルにいち早く対策を施し、その後も継続的に対策を施している同センター。では、最近の事情はどうなっているのでしょうか。「学校ネットパトロール事業などの対策をしているものの、不適切な書き込みは、すべてなくなっているわけではありません。学校裏サイトは激減したものの、ここ数年はSNS上で展開されるようになっています。それに合わせ『学校ネットパトロール』の内容も、Twitterなど主要なSNSを中心に子供たちによる不適切な書き込みを検索・分析することに変わり、またそれを取りまとめて該当校へ報告するようになりました」と岡部指導主事は最新状況を説明してくれました。

「ただ…」と少し顔を曇らせた須藤先生は、「今はLINEが主流で、少々弱っていますね。クローズドのコミュニティでネットパトロールの手が届かないからです」と学校が直面している課題を明かします。「ここに関しては、先に岡部さんが触れたように、学校や地域、家庭ぐるみでインターネットとのつきあい方をどうするか、よく話し合ってコンセンサスを得ていくことなどのアプローチを強化していかねばなりませんね」と須藤先生は新たな課題に対する取り組みも検討しています。

2014年7月には、神奈川県・横浜市・川崎市・相模原市が共同で、県内の小・中・高等学校の児童生徒を対象とした「子どもたちのネット利用に係る実態調査」を初めて実施。10月にその結果報告が公表されました。96.6%の子供がインターネットに接続可能な端末を所持し、利用のルールを決めていない47.9%の子供に、長時間ネット利用の傾向があることが判明しました。フィルタリングの利用率は58.8%にとどまったことも明らかになっています。

「この結果は、保護者への意識啓発をもっと進めなければならないことを示しています。デジタルネイティブと呼ばれる子供たちが、保護者の想像以上にインターネットに接していることを理解してもらい、学校に対しても、もっと指導していきます。そして、『学校ネットパトロール』を抑止力として、さらに活用していき、今後もさらなる施策を練って実践していきます」と語る岡部指導主事。同センターでは今後もインターネットに関わる子供たちへの対策をより一層進めようとしています。